埼玉県所沢市近郊
作品概要
© 1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli
「このへんな生きものは まだ日本にいるのです。たぶん。」
「忘れものを、届けにきました」
ストーリー
「そりゃスゴイ、お化け屋敷に住むのが父さんの夢だったんだ」と、こんなことを言うお父さんの娘が、小学六年生のサツキと四歳のメイ。このふたりが、大きな袋にどんぐりをいっぱいつめた、たぬきのようでフクロウのようで、クマのような、へんないきものに会います。ちょっと昔の森の中には、こんなへんないきものが、どうもいたらしいのです。でもよおく探せば、まだきっといる。見つからないのは、いないと思いこんでいるから。
地域ばなし・プロダクションノート
昭和30年代はじめの郊外を舞台に、トトロやネコバスなどの不思議な存在と、姉妹のふれあいを描いたファンタジー作品です。
映画のストーリー上の舞台は、「少し前の日本の、どこにでもあった田園と里山の風景が広がる、東京近郊の松郷(現:埼玉県所沢市松郷)という農村の古い一軒家」です。
映画の舞台は、テレビのなかった時代の日本です。宮﨑駿監督はインタビューで「昭和30年代初期というのは、実は嘘で、本当をいうと、テレビがまだない時代の話なんです」と話しています。
「幸せな心温まる映画。楽しい、清々した心で家路をたどれる映画。恋人たちはいとおしさを募らせ、親たちはしみじみと子ども時代を想い出し、子供たちはトトロに会いたくて、神社の裏の探検や樹のぼりを始める。そんな映画をつくりたいのです。」と宮﨑駿監督はコメントしています。
宮﨑駿監督が着想してから10年以上描きためていたイメージボードがベースになっています。当初は「所沢のとなりのオバケ」と呼ばれていましたが、縮まって「トトロ」となりました。
映画の舞台には、いろいろな場所が混ざっています。宮﨑駿監督がよく散歩で訪れていた埼玉県と東京都の都県境にある狭山丘陵や、かつて宮﨑駿監督が在籍していた日本アニメーションのスタジオのある東京都の多摩市の風景などです。
映画の舞台として様々なことが言われていますが。宮﨑駿監督は制作当時、「あの場所の舞台は,実はいろいろな所から取っているんです。聖蹟桜ヶ丘の日本アニメーションの近くとか、自分が子どもの頃見て育った神田川の流域とか、今住んでいる所沢の風景とか、みんなまざっちゃったんです。それに美術の男鹿和雄さんが秋田の出身だから、なんとなく秋田らしくもなっているんですよ(笑)。だから具体的に場所をきめたというわけではないですね」(「ロマンアルバム となりのトトロ」徳間書店)」と話しています。
宮﨑駿監督は「ロケハンは、実は日本アニメーションの裏のほうに、一日ぐらい行っただけです。男鹿さんと作画監督の佐藤好春さんと三人で。あと男鹿さんが自分の足でそこを何回か見に行っています。」とインタビューにこたえています。
「草壁家」は、宮﨑駿監督が子どもの頃に暮らしていた杉並区善福寺の家の記憶がモデルになっています。また、玄関の脇に応接間がくっついているような住宅の記憶もモデルになっています。
「草壁家」の設定は、結核の療養のための家という設定です。患者が亡くなってしまって庭の手入れもこれからという段階で、そのまま放っておいた家が想定されています。
「草壁家」は、伝統的な桟瓦葺き・下見板張りの和風住宅に、金属で葺かれたモダンな赤い屋根を持つ洋風の応接間がつけられた和洋折衷の住宅です。和風建築に洋風の応接間が附属した住宅の形式は、昭和初期には”文化住宅”と呼ばれ、東京近郊においてよく見られた住宅です。大きな寄棟の屋根があり、手前に三角の屋根がのっています。三角屋根は、宮﨑駿監督が子どもの頃に見た不思議なやねの記憶をもとにいろいろ合成して描かれています。
「草壁家」には「江戸東京たてもの園」の「田園調布の家(大川邸)」のようなパーゴラ(住宅の軒先や庭に設ける木材などで組んだ棚)がついています。パーゴラがあって、白いペンキが塗ってあって、シュロを植えるというのは、一時期流行しました。シュロはシュロ縄を採るので人気がありました。
「愛・地球博(2005年の愛知万博)」長久手会場に劇中の「草壁家」が「サツキとメイの家」として再現されました。計画から竣工までおよそ1年半をかけ、映画に映っていない細部までを建築図面に起こし、土台や木材、瓦、風呂釜、建具に使われる紙、釜や箒一本にいたる全てに、ジブリ美術館のスタッフ、建築士、大工や職人といった多くの専門家の知恵と技術を結集し、映画の世界を現出させています。
「サツキとメイの家」は、「映画のセットのような家を建てるんじゃ面白くない。本物の「サツキとメイの家」を建てよう」ということになり、その結果、昭和初期の日本で使われていた工法と材料だけで甦らせています。
映画に出てくる「サツキとメイの家」であること、実際の住宅としてよい家であること、昭和初期の工法と材料だけを使うこと、という条件の基で「サツキとメイの家」は建築されました。
「サツキとメイの家」は、木造の伝統構法で建てられました。伝統構法とは 日本に古来から伝わる建築工法で、木組みの柔軟性を活かした木造工法です。 金物を使わず、木の特性を活かす仕口、継ぎ手でくみ上げられています。 柱の結合部がボルトなどの金物で固定されていないため、地震の際には建物全体がわずかに変形し、揺れを吸収・受け流す働きを可能としています。昭和初期の木造建築は、現在の在来工法とは大きく違っています。現在の在来工法はプレカット工場で部材を作り、大工さんが釘・ボルト・金物を使って組み立てています。それに対して、昔の大工さんは、一本一本自分で木材を刻んでほぞを組んでいました。金物をほとんど使わずに様々な木組みを駆使して、その力だけで家を建てていたのです。この建て方を伝統構法(伝統工法とも)といいます。
伝統構法は、風にゆれても戻るという工法なのに対して、現在の在来工法は、筋かいやパネルなどを入れて、かちっと固めて耐えるという工法です。伝統構法は免震的構造で、在来工法は耐震的構造といえます。
「サツキとメイの家」は、愛知万博終了後も「愛・地球博記念公園」に保存・公開されています。2024年現在は「ジブリパーク」となっています。
埼玉県の狭山丘陵に、トトロのふるさと基金のトラスト取得地「トトロの森」があります。
参考文献:
「ジブリの立体建造物展 図録復刻版」スタジオジブリ編
「江戸東京たてもの園だより11」江戸東京たてもの園
「江戸東京たてもの園だより44」江戸東京たてもの園
「江戸東京たてもの園 解説本 収蔵建造物のくらしと建築」(公財)東京都歴史文化財団
「新 江戸東京たてもの園物語」企画・編集:江戸東京たてもの園・スタジオジブリ
「ジブリの教科書3 となりのトトロ」スタジオジブリ・文春文庫編
「サツキとメイの家のつくり方」スタジオジブリ出版部、発行:ぴあ株式会社
映画にちなんだもの・グルメ
オカリナ、トウモロコシ、狭山茶、ねこバス
コラボ商品
「となりのトトロ」ぬいぐるみ
キャスト
サツキ:日高のり子、メイ:坂本千夏、とうさん:糸井重里、かあさん:島本須美、ばあちゃん:北林谷栄、トトロ:高木均
スタッフ
監督:宮崎駿
脚本:宮崎駿
プロデューサー:原徹
原作:宮崎駿
作画:佐藤好春
美術:男鹿和雄
仕上:保田道世
音楽:久石譲
オープニングテーマ:「さんぽ」作詞:中川李枝子、作・編曲:久石譲、歌:井上あずみ
エンディングテーマ:「となりのトトロ」作詞:宮崎駿、作・編曲:久石譲、歌:井上あずみ
制作:スタジオジブリ
作品データ
- クレジット:© 1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli
- 製作年:1988年
- 公開日:1988年4月16日
- 製作国:日本
- 配給:東宝
- 上映時間:86分
- 映倫区分:G
- 受賞歴等:1988年度キネマ旬報ベストテン 日本映画ベストテン第1位
- ブルーレイ:『となりのトトロ』発売中 (C)1988 二馬力・G
ゆかりの地図
愛・地球博記念公園「サツキとメイの家」 |
愛知県長久手町大字熊張字茨ケ廻間乙1533-1 |
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