映画人:翁長 裕

クローズアップ

映像作家:翁長 裕(おなが ゆたか)

プロフィール

1957年沖縄県那覇市生まれ。
1981年にカメラマンのアシスタント時代に撮りためていた、アンダーグラウンドロックシーンのフォトドキュメンタリーが、写真月刊誌『写楽』にて特集される。
その後、フリーカメラマンとして独立、音楽誌及び写真グラビア誌を中心に、活動を始める。
RCサクセションのオフィシャルカメラマンに抜擢されたことをきっかけに、渡辺美里、久保田利伸らのミュージッククリップやライヴ映像を手掛けるなど、音楽映像の世界に進出する。1986年、自らの映像制作会社株式会社イフ設立。
以降、中島みゆき、GLAY、Blankey Jet Cityら、日本の音楽シーンをリードするアーティストの映像を数多く演出。いまなお第一線でディレクター&カメラマンとして活動を続ける、気鋭の映像作家である。
音楽ライヴの劇場化を多く手がけ、中島みゆきの劇場版は第1弾の「歌旅」以降、「歌姫」「夜会VOL.17 2/2」「雛まつり」全ての作品に監督として携わる。
その他の代表作Blankey Jet City『VANISHING POINT』など。

中島みゆき「縁会2012~3 劇場版」 インタビュー

僕が全ての映像収録に関してポリシーとして持っているのが、撮る前から演出しないということなんですね。
他の現場で体験するんですけど、歌詞カードに細かくカット割りされていることがある。僕は違うと思うんです。中にはそういうアーティストもいるかもしれないけど、みゆきさんはそうじゃない。それだとカメラマンがオペレーター化してしまう。
歌詞カード見ながら言われた通りに従順に正確に撮るしかなくなるし、それに応えられるのが良いカメラマンということになる。
音楽映像というのは中継とは違うんですね。人の心を揺する音魂を感じて、その周波数とリンクした映像を撮れるカメラマンでないと困る。形でなく心で撮る。そういう人を揃えるようにしてるんです。その人たちに好きなようにそれぞれのポジションから最上のものを撮ってもらう。自由に撮ってもらったものの中から僕の感覚に合致する映像を好きなだけの長さでコラージュする。決まり事がない。
みゆきさんは、僕が志してきたそういう理想とする形態をOKしてくれる。やっと巡りあった感じです。音楽の映像という面で一層の深みや高みを目指すための戦いが待っているという非常にやり甲斐のあるアーティストなんです。

最初は、「夜会」の「23時0時着」を映像化した時のお手伝いですね。それまでは、どこか重たい気がしてたんです。BGMとして気楽に聞けない。
僕はロック系の人の仕事が多かったんですけど、そういう音楽は、テンション高いですよね。体力的にも精神的にも高い音楽で、そこでバイブレーションがリンクするわけですけど、みゆきさんはそうじゃなかった。自分がダメージを負ったり、岐路に立たさせれた時に向き合うことになるのかな、と思ってました。でも、こちらも年を重ねて、迷いや無駄がなくなってきて音楽を掘り下げて行く方が面白くなってきたんでしょうね。そうなった時に、みゆきさんの音楽観、世界観が痛いほど入って来たんです。
「歌旅」の時も打ち合わせで本人から「単なるライブ作品にしたくない」という話しが本人からありました。僕もそう思ってましたけど「これが最後かも知れない」という覚悟がお互いにあったのかもしれません。
ですから、今回もコンサートを見た時に、あまりに素晴らしいんで、こういう音楽空間を後世に残したいと思った。ですから、収録出来るということになって「また撮ってもいいんですか。またチャンスを頂けるんですか、ありがたい」という感じでした(笑)。

どんなシーンにも思い入れがあります。中でも「倒木の敗者復活戦」のみゆきさんが祈るような場面は、普通、あれだけの長さと途中で他の映像に行きがちなんですけど、それをしてない。あの曲に彼女が込めたものが託されている。”秘めたパフォーマンス”。”分かってもらわなくても結構です”的な祈りが時々ある。それは掬うようにしてます。僕も”倒木”ですからね(笑)。
敗者復活戦ですから。菩薩なんですよね。”女神感”的な、ものとしては、赤い衣装でギターを抱えている「泣きたい夜に」でしょうね。あの美しさ。堂々として凛としてしかも神々しい、みたいなところをしっかり出したくて正面の画の1カットを長く使ってます。
僕等は裏方なんで、表に出なくていい。編集点がどこだったかなんて気にしなくていい。みゆきさんに吸い込まれて2時間経って、やっぱり素晴らしいと思われればいい。余計な編集してしまって、あそこが目立ったカッコ良かったと言われても困ってしまう。
照明もそうじゃないんですか。舞台の演出もそうだと思う。みゆきさんの世界観をみんなが支えているというのが到達点。音楽が伝われば良いんです。 <取材・文:田家 秀樹 音楽評論家>

ゆかりの地図

那覇市
26.212435,127.679672

 

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